これまで、補佐人弁理士として、複数の特許権侵害訴訟を経験して特許明細書の作成時における注意点を考えてみた。
先ず、私が予想以上の衝撃を受けたことは、
特許明細書の従来技術(背景)がとても重要であり、本件発明の範囲を広くするのも、狭くするのも、従来技術の認識次第、
と言っても過言ではない、ということです。
発明の把握は、先ず、従来技術ないし発明に至った背景の位置付けです。
ここが出発点なので、従来技術をいい加減に記載することや、省略することはあってはならないと考えます。
次に、請求項中の文言です。
請求項中の文言と、実施例における文言と、の関係ですが、
実施例において極めて具体的な技術名(固有名詞等)を記載する場合、請求項ではそれを上位概念化する文言を記載する、ことが重要です。
上位概念化するということは、多くの例示を実施例で記載しておく必要がありますが、
間違っても、○○はダメ、△△は問題がある、というような記載は、余程のことがない限り、必要ありません。
例えば、実施例で実験結果を記載すると仮定します。
本件発明の実施例、従来技術の例だけではなく、比較例として従来技術ではない対抗馬を登場させているケースも散見されます。
おそらく、発明者の心のうちとして、本件発明の実施例の優位性を示すために、従来技術だけではなく、比較例とも比較したい、ということだと思いますが、
この比較例は結構、クセモノで、従来技術ではない比較例であれば、係争相手に侵害回避の塩を送っているような結果になります。
この場合、本件発明の実施例と、従来技術の例だけを示すことが無難です。
比較例については、従来技術の例と比較して有用性を示すことができれば、従来技術の位置付けを見直し、比較例も発明の範囲に含めるようにするか、
別発明として独立して請求項に記載しておく必要があります。
他方、実施例についても、発明が成立するという限度において、概念化して記載する、ことも有効です。
この場合、特許図面も、上位概念化したブロック図等で現し、ロジックによって、発明の完成と、従来技術からの優位性を同時に説明します。
こちらはロジックの完成度とその表現力が要求されるため、高度なスキルが必要なのですが、
文科系出身の弁理士が技術経験がなくても到達することができる型である、と思います。
特許権侵害訴訟に至れば、どんなに完成度が高い特許明細書でも、相手は反論してくるのが常ですから、
相手の反論を封じることは不可能ですが、
こちらの論理矛盾や、発明の認識にブレがある、ような記載は命とりです。
裁判官の心証というものがあって、何かズルいことをしていたり、誤魔化していたりすれば、すぐに見破られます。
事実はどうあれ、裁判官の心証次第で、勝訴することも、敗訴する、ことも可能、なのです。
それが日本の裁判。
特許明細書は、どこまで記載するべきかという議論はありますが、
これだけではなく、何を記載すれば過ぎるのかという視点も付加して、常に両軸で考えながら、完成させるべきものです。
訴訟でも同じで、何を主張するのか、どこまで主張すれば言い過ぎなのか、
その見極めが裁判官の心証を左右する要素として、とても重要です。
事実や真実を細かく主張していけば、勝訴に至るとはとても思いません。
弁理士も弁護士も、そこの見極めに関する暗黙知を備えて、はじめてプロといえるのだと思います。
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